SUS部員塾17期下期第3回講義レポート
株式会社オルタナは12月15日に「サステナビリティ部員塾」17期下期第3回をオンラインで開催しました。当日の模様は下記の通りです。なお次回(17期下期第4回=2021年1月19日)もオンライン形式で開催します。17期のカリキュラムはこちら
①事例研究4:脱炭素とRE100〜自然エネルギー100%への展望〜
時間: 10:30~12:00
講師:松原 弘直氏(特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所 主席研究員)
2050年カーボンニュートラルにおいて重要な取り組みとなる、再生可能エネルギーの普及拡大。その実現に向けた展望や、世界と日本の現状について、15年にわたって再エネ普及に向けた研究や政策提言を行っている松原弘直さんが解説した。
●世界の現状
気候危機は待ったなしの状況にあり、COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)では世界の平均気温上昇を1.5℃未満に抑える合意がされた。そのためには温室効果ガス排出量を2030年までに45%、50年までに実質ゼロにしなければならない。
50年実質ゼロの実現には、30年の削減目標を可能な限り高めることが重要で、4月の気候サミットで日本は46%削減を表明した。
自治体や企業も危機感を持っており、再エネ100%を目標に掲げる都市や地域は300以上、電力の再エネ100%を目指す「RE100」に加盟する企業は300社を超えている(うち日本企業は60社以上)。
●再エネ普及に向けたシナリオ
190カ国以上が参加する「IRENA」(国際自然エネルギー機関)は、1.5℃シナリオ実現に向け、温室効果ガスを100%削減するシナリオを描いている。
・再エネの普及:25%
・省エネ:25%
・熱需要の電化:20%
・水素:10%
・CCUS(炭素貯留・リサイクル):6%
・BECCS(他の炭素除去方法):14%
他にもEUを中心に複数のNGOや研究機関がシナリオを公表しているが、電力だけでなく熱や交通分野も含めた総合的な施策が大切だ。
●再エネ普及の現状
1990年代の世界における再エネはほぼゼロだったが、2000年代から急速に普及した。主力は太陽光と風力で、両者の発電設備容量を合わせると約1400GW(原発1400基分)に。
太陽光、風力ともに最も導入量が多いのは中国。ヨーロッパが牽引してきた洋上風力についても、英国を追い抜こうとしている。
発電コストも下がっており、2010年と20年を比較すると太陽光で80%以上低下した。一方の日本は世界平均の2倍と、まだ高値が続く。
●日本も参考にすべきデンマークの取り組み
熱分野も電力同様に「融通」が重要。デンマークで盛んな「地域熱供給」は、日本でもいくつかの都市が導入している。
デンマークは電力、熱、運輸の各セクターを統合させた「セクターカップリング」で再エネ100%を実現するシナリオを描いている。
電力分野については、2000年代初頭の再エネ普及率は20%程度。そこから電力システムの改革を経て現在は50%を超え、30年100%の目標を掲げている。同様の取り組みは、日本でも十分に可能ではないか。
●日本の現状と課題
日本における再エネの主力は太陽光で、FIT(固定価格買取)によって急速に普及した。現在はFIP制度(22年4月)への移行、売電から自家消費への移行など、過渡期にある。
再エネの普及拡大には、地域間連携線の広域化が必要。九州、四国、東北エリアでは瞬間的に再エネだけで100%以上の需要を賄える状況が発生した。四国は中国地方と関西地方に連携線がつながっており、余剰分のエリア外供給が可能になっている。国のマスタープランでは、風力発電のポテンシャルが大きな北海道から、首都圏に直接送電する計画もある。
●日本国内の100%再エネ化
エネルギー基本計画では、電源比率における再エネの割合を2030年で36〜38%としており、50年の目標は定めていない。
しかしNGOや研究機関は再エネ100%のシナリオを発表。環境エネルギー政策研究所はグリーンピースジャパンと共同で、東京都に100%再エネ化に向けた提言を行った。そこでは省エネと電化を進めるとともに、電化しきれない熱需要については再エネ(主に太陽熱)や水素を活用することで、化石燃料の使用ゼロを目指す。
NPO事例紹介:1型糖尿病の根絶に向けた取り組みについて
時間:13:00~13:15
登壇:大村 詠一氏(特定非営利活動法人日本IDDMネットワーク専務理事)
日本IDDMネットワークは、1型糖尿病などを持つ子の親が集まって1995年にできた。インスリン補充が必須な患者とその家族一人ひとりが希望を持って生きられる社会を実現することを目指し活動している。
主な取り組みは2つある。一つは、「希望のバッグ」という名称の取り組みだ。発症したばかりの1型糖尿病患者とインスリン治療が必要な2型糖尿病患者を対象に必要な医療情報をつめた「バッグ」を配布している。活動を開始して26年になるが、累計で4000個のバッグを届けた。
二つ目の活動が、1型糖尿病研究基金だ。この基金は、ふるさと納税などによる寄付金から成り立ち、1型糖尿病の根治を目指す研究に助成している。2005年に基金を立ち上げて、累計の助成件数は101件、総額4億9750万円に及ぶ。
登壇した大村詠一・専務理事は1型糖尿病の根治に向けて力を貸してほしいと強く呼びかけた。
②事例研究5:野心的な長期目標をどう設定するか
時間: 13:15~14:45
講師: 後藤 敏彦(NPO法人日本サステナビリティ投資フォーラム 理事・最高顧問)
TCFD最終報告書などを翻訳した後藤敏彦・日本サステナビリティ投資フォーラム最高顧問が、企業が長期的目標を持つことの必要性と具体的な策定の仕方について話した。
後藤氏は、一社グローバル・コンパクト・ネットワークジャパンなど複数の団体の理事を務める。企業の情報公開のガイドラインを策定する環境省の複数の委員会の委員長も歴任する業界の第一人者だ。
まず長期目標を策定する必要性について、気候変動と人権の観点から説明した。気候変動については、世界経済フォーラムが毎年発表しているグローバル・リスクレポートを参考に、「ここ数年、上位のリスクは気候変動など環境関連のものが占めている」と話す。今年8月にIPCCが発表した第6次評価報告書で、地球温暖化が人の活動が原因と断定したことにも言及した。
今後は、「1.5℃目標」がグローバル・スタンダードになり、カーボンプライシングに取り組むことも欠かせないと強調した。
次に、ビジネスと人権について説明した。ビジネスがグローバル化するにつれて人権が重要視されだしたとして、人権を理解するには、1948年に制定した「世界人権宣言」がすべての元になっていると話した。
その後、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」の捉え方を説明し、すでに欧州では環境デューデリジェンスを含む人権デューデリジェンスを義務化していることを話した。
気候変動と人権などのサステナビリティのメガトレンドを紹介したうえで、今後起こり得る社会課題を想定して、ビジネスチャンスと捉えて長期目標を策定するべきだと語った。
後半ではSDGsやTCFDへの具体的な対応方法や情報公開の考え方やポイントを話した。
③WS(野心的な長期目標の作り方)
時間: 15:00~16:30
講師: 森 摂(株式会社オルタナ 代表取締役・オルタナ編集長)
前半は、森摂オルタナ編集長が「野心的な長期目標の作り方」について講義を行いました。その後5つのグループに分かれてディスカッションし、最後に各グループから発表を行いました。
■講義要旨
自社のカーボンニュートラルや、スコープ3を見据えた脱炭素への取り組みは、経営陣が理解しないと担当が頑張っても難しい。しかし2017年あたりから意識が変化してきた。
温室効果ガスの削減は、2030年までが決定的に重要だ。COP26は1.5度目標にこれまで以上に近づいた回だった。
「カーボンニュートラル」、「ネットゼロ」、「脱炭素」の違いを理解しておくことも重要だ。
取り組みとしてカーボンオフセットを利用する企業も多いが、植林によるCO2吸収量を過大に見積もって販売する業者もあるようだ。利用する際は、十分注意して進めないといけない。
CO2排出削減目標の達成を2050年から2040年へと前倒しする意欲的な企業も出てきた。こうした企業は本当のトップランナーだ。
削減に当たっては、スコープ3が入っているかも大きく問われる。マークス&スペンサーが一番先進的な事例と言える。
H&Mは2030年までに再生可能素材100%を目指す。グッチは製品に使用する金をエシカル(責任ある調達)にする。温室効果ガス削減だけでなく、こうした取り組みも自社事業をサステナブルにするには必要だ。
④企業事例11:損保ジャパン
時間: 16:45~18:15
講師: 金井 圭氏(損害保険ジャパン株式会社 サステナビリティ推進部 リーダー)
損害保険ジャパンは1888年、東京火災として創業した。「江戸の火消し」の心意気(お客さまを守る/街の課題を解決する)を創業精神として、変化する社会課題に対応する形で、火災保険や自動車保険、農業保険、介護・ヘルスケア事業などを立ち上げてきた。
SOMPOグループの「パーパス」(存在意義)は、「『安心・安全・健康のテーマパーク』になることで、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」だ。
損害保険ジャパンの金井圭・サステナビリティ推進部リーダーは、「会社のパーパスと自分の『MYパーパス』が重なったときに幸せを感じる。会社の中に自分の人生があるのではなく、自分の人生の中に会社を入れることが必要だ。そうした思いで全社的に『MYパーパス』の推進を進めている」と説明する。社内アンケートの結果、98%が「MYパーパス」を持ちたいと答えたという。
SOMPOグループの事業の挑戦の一つに、デジタル戦略がある。GAFAなどが保険事業に参入するなか、同社は「リアルデータ」で対抗する。事故データ、走行データ、介護データなど、現実世界で積み上げてきた莫大なデータを活用する「リアル・データ・プラットフォーム(RDP)」を立ち上げた。
例えば、介護業界が抱える課題として、介護にかかる社会保障費の増大や介護人材の需給ギャップの拡大があり、2035年度には79万人の人材不足が見込まれる。そうしたなか、介護記録システムや眠りセンサーを開発し、生産性の向上を図る。
最近では、社会課題の解決を後押しする事業として、洋上風力発電におけるリスク把握から保険手配までを行う「 ONE SOMPO WINDサービス」、安全運転支援サービス「Driving!」、災害発生時に自治体が避難勧告を出しやすくするための「防災・減災費用保険」なども生まれている。
東日本大震災の際、保険金支払い業務を担当していた金井氏は、「災害が起きる前にお客さまに安心・安全・健康を提供したい」という思いから、「防災ジャパンダプロジェクト」を立ち上げた。これまでに防災教育プログラムには5万人以上が参加した。