SUS部員塾17期下期第2回講義レポート
株式会社オルタナは11月17日に「サステナビリティ部員塾」17期下期第2回をオンラインで開催しました。当日の模様は下記の通りです。なお次回(17期下期第3回=2021年12月15日)もオンライン形式で開催します。17期のカリキュラムはこちら
①企業事例9:オムロン
時間:10:30~12:00
講師:貝﨑 勝氏(オムロン株式会社 サステナビリティ推進室 General Manager)
大手電気機器メーカーのオムロンは、企業理念「われわれの働きで、われわれの生活を向上し、よりよい社会をつくりましょう」を掲げ、3つの価値観「ソーシャルニーズの創造」「絶えざるチャレンジ」「人間性の尊重」を大切にしている。
同社の貝﨑勝サステナビリティ推進室General Managerは、「企業理念とは、迷ったときの判断の拠りどころ、求心力であり原動力」と説明する。
同社はグローバルで企業理念の浸透活動に力を入れる。その代表事例が、2012年度に始めた「TOGA:The OMRON Global Awards」だ。企業理念の実践にチャレンジし続ける風土を醸成することを目的に、グローバル全体で年に1回表彰している。従業員2万8000人のところ、年間5万件の応募があり、1人2倍弱の提案をしているという。
「オムロンにとってのサステナビリティとは、事業を通じて社会課題を解決すること。サステナビリティ、CSR、ESGといった言葉やそれぞれの解釈はあるが、本質的にやることは一緒。オムロンにとって企業理念をすることが、サステナビリティの取り組みだと考えている」(貝崎General Manager)
社会的課題を解決する事業の一つに、ヘルスケア事業がある。世界の脳・心血管疾患の発症者数が1750万人に上るなか、オムロンは発症を未然に防ぐため、血圧の連続測定技術を確立し、腕時計型の血圧計とった商品の開発を進める。血圧計の販売台数を増やすことで、脳・心血管疾患の発症ゼロに貢献することを目指す。
こうした事業活動を展開するための組織体制も整備している。取締役会がサステナビリティ方針を設定し、取り組みへの監視・監督機能を果たすことを宣言。経営トップ層の中長期業績連動報酬を決定する際のKPIの一つに、第三者機関のサステナビリティ指標に基づく評価を採用した。
同社は2030年に向けて、CO2排出量の抑制、人と機会の協働・融和、健康寿命の延伸への取り組みをさらに進めていくという。
NPO事例紹介:地域課題に取り組むNPO の役割~子どもの孤立・虐待・不登校を地域で解決するために~
時間:13:00~13:15
登壇:田中 雅子氏(認定NPO 法人こども∞(むげん)感ぱにー 代表理事)
認定NPO法人こどもむげん感ぱにーは、2011年3月に発生した東日本大震災をきっかけに石巻で生まれた子ども支援の団体。児童養護施設や寄宿生フリースクールで働いてきた田中雅子さんが立ち上げた。
現在は、プレーパークと不登校の子どもの居場所・フリースクールを活動の軸とし、子どもの居場所をつくるとともに、市内に子どもの居場所を増やす取り組みや不登校課題の改善に力を注いでいる。田中代表理事は、「すべての子どもたちが安心して暮らし、子どもの成長を地域で見守り、育てる社会を実現していきたい。子どもの孤立や不登校、未成年の自死は大人が動かなければ解決しない。もし良かったら応援してください」と呼び掛けた。
②日本のリサイクルの問題点は何か
時間: 13:15~14:45
講師: 佐藤 泉氏(佐藤泉法律事務所 弁護士)
2022年4月「プラスチック新法」(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)が施行される。同法の概要、問題点、企業が取るべき対応について押さえておくべきポイントを、環境関連法を主な専門とする佐藤弁護士が解説した。
●日本のリサイクルを取り巻く状況
日本は衛生面から廃棄物の焼却処理を進めてきた歴史があり、焼却炉の普及率は世界一となっている。しかし廃棄物を減らすにはリサイクルも必要なため、1998(平成10)年に家電リサイクル法を制定。その後、容器包装、食品、建設、自動車、小型家電と製品ごとのリサイクル法ができた。
●「素材」に着目したプラスチック新法
2021年6月に成立したプラスチック新法は、個別の製品でなくプラスチックという素材に着目し、資源循環の促進を目的としている。
対象については「プラスチック使用製品とは、プラスチックが使用される製品をいう」(第2条1項)と、広く漠然としている。1%でもプラスチックが使われていれば、プラスチック新法の対象となる。使用済みプラスチックについても、未使用品と廃棄物を含む広い定義となっている。
また、プラスチック新法はあくまでも「促進法」であり、規制が趣旨ではない。企業に対しては自主的な取り組みを促す趣旨で、強制力はゆるい。
●EUと異なるリサイクル事情
EUはワンウェイ(使い捨て)プラスチックの排出を抑制するべく、対策を実施。こちらは企業の拡大生産者責任も含め、全ての施策に法的拘束力がある。これを可能にしているのが独自のトップダウンの仕組みで、EUで決めた政策を各国の自治体レベルにまで落とし込んでいく体制が確立されている。市町村の自治がある日本がEUの方法を真似るのは難しい。
●プラスチック新法はESG投資を呼び込む
プラスチック新法の強制力はゆるいものの、企業に「取り組みをやらなければ」と思わせるだけの効果はある。特に上場企業は、CSR レポートを通して取り組みを積極的に開示することになるだろう。
プラスチック新法の背景には、投資を呼び込む狙いがある。2021年1月には経済産業省と環境省が「サーキュラー・エコノミーに係るサステナブルファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス」を作成した。
作成には金融庁がオブザーバーとして参加し、「サーキュラー・エコノミーおよびプラスチック資源循環に資する取り組みを進める日本企業が、国内外の投資家や金融機関から適正に評価を受け、投資家を呼び込む」ことを目的としている。
プラスチック新法には、日本の企業行動を変え、ESG投資を呼び込み、金融市場を変えるきっかけになるチャンスとリスクがある。
③WS(サステナビリティレポートの相互チェック)
時間: 15:00~16:30
講師: 森 摂(株式会社オルタナ 代表取締役 オルタナ編集長)
受講生約50人のうち、サステナビリティレポートを発行している企業約20社がポイントを紹介した。
④りそなアセットマネジメントのスチュワードシップ戦略
時間: 16:45~18:15
講師: 松原 稔 氏(りそなアセットマネジメント責任投資部 執行役員 責任投資部長)
りそなアセットマネジメントは、2015年にりそな銀行の資産運用や投資・信託部門を統合して生まれたまだ新しい会社だが、その運用資産は2021年で33兆円という日本でもトップ5に入る規模を誇る。
今回松原執行役員には、機関投資家の立場で、サステナブルな社会の構築に資するという視点で講義を頂いた。
金融はあくまでもサポート役だと述べるが、その取り組みは多岐にわたる。
その中で今注目されるのが「スチュワードシップコード」だ。これは投資家に求められる「行動規範」をまとめたものだ。これは法律のように何かを規制する「don’t」はなく、こうすべきという「wish」を語るものだ。
同社は「将来世代に対しても豊かさ、幸せを提供できる運用機関」をパーパスにかかげる。その心は、資産の受託者として、「お客さま」「社会・環境」「企業」それぞれのサステナビリティを未来のあるべき経済システム像として描くことだ。
金融がなぜサステナビリティに関与しなければならないのだろうか。それは最近注目されるテーマでもある「サーキュラーエコノミー」に関係する。
私たちの生活は全て、地球の資源に依存している。しかし人類の需要は、すでに地球が供給できる能力の1.6倍に達していると言われる。つまりこのままでは私たち自身が存続が危うくなるのだ。
投資家が企業にサステナブルな経営を求めることは、私たち自身がこれからも持続的に生活していくことにつながる。
同氏は「豊かさとは何か、ということが今後一層注目されることになる」と語り、ネイティブアメリカンの諺を用いてこう締めくくった。
「私たちは、地球を先祖から受け継いだだけでなく、子どもたちから借りているのです」