サステナ経営塾20期上期第2回レポート

株式会社オルタナは2024年5月15日に「サステナ経営塾」20期上期第2回をオンラインとリアルでハイブリッド開催しました。当日の模様は下記の通りです。

①社会から見た企業の役割/SDGs概論

時間: 10:20~11:40
講師:町井 則雄 氏(株式会社シンカ 代表取締役社長/株式会社オルタナ オルタナ総研 所長)

町井 則雄 氏

第1講では、オルタナ総研所長を務める町井則雄シンカ社長が、「社会から見た企業の役割/SDGs概論」について講義した。

・「複雑化する社会課題は誰が解決してくれるのか」。町井講師は、講義の冒頭でこう投げかけた。「私たちは、これまでに経験したことのない、グローバルで、多様で、複雑な、社会と課題に向き合って生きていかなければならない。政府を含め、一つのセクターだけが背負って解決できる時代ではない」と話す。

・「産官学が、共通の課題に取り組む『総働』が求められている。企業にとっては、新たなマーケット創出につながる可能性がある。ぜひ企業にも、ビジネスの視点から社会課題の解決に取り組んでほしい」

・2015年に国連でSDGs(持続可能な開発目標)が採択され、SDGs達成に向けた主要な主体の1つとして、企業への期待も高まっている。「健全な『環境』があるからこそ、『社会』『経済』が成り立つ。SDGsは企業の生存戦略でもある」。

・近年、ヨーロッパやシベリアの記録的熱波、オーストラリアの森林火災、バングラデシュの洪水など、自然災害が頻発している。ニューヨークも一部で水没。この50年で、世界の自然災害は6倍も増えているという。

・町井講師は「気候変動対策も重要だが、生物多様性が損なわれていることが大きな問題」と強調する。世界は6回目の大量絶滅期に突入し、これまでの約100倍のスピードで絶滅が進んでいる。数百年以内に75%の種が絶滅するという指摘もある。「たとえばミツバチがいなくなるだけで人類は飢餓に陥る。その場合、文明の維持すら難しくなる」。

・2015年、国連でパリ協定が採択されると、石油大手BP社の社長は、「カーボンプライシングの時代になる」と表明。町井講師は、「ゲームのルールが変わる時代に突入した。BP社は石油を売る会社から、CO2排出権を売る企業に転換を図った」と説明する。

・町井講師は、行政やNPO/NGOとの協働の重要性についても語った。「NPOは、ビジネスの観点は弱いが、課題に気付く感度や課題解決策は素晴らしい。課題の共有と役割分担の明確化がカギになる。行政との連携では、企業は下請けになりやすいが、課題解決のパートナーとしてのポジショニングを行うことが大切だ」。

・「企業が社会から期待される役割を果たすことでビジネスチャンスが広がる。経済合理性から見ても、企業はSDGsを企業戦略に生かすべき時代だ」とし、企業への期待を語った。

②統合思考/統合レポーティングとは何か

時間: 13:00~14:30

講師: 中畑 陽一氏(株式会社オルタナ オルタナ総研フェロー)

中畑 陽一氏

第2講は、サステナ検定2級テキスト「サステナビリティの情報開示/レポーティング」の執筆者の一人で、オルタナ総研の中畑陽一フェローから、統合思考と統合レポーティングについて講義した。

・統合報告書は、気候変動などの社会課題の深刻化と、市場価値における無形資産価値の割合が増大する中で誕生し、現在は70か国以上、2500以上の組織が統合報告を採用する(2022年9月現在)。地域別ではアジア・太平洋地域が43%と最も多く、特に積極的な日本では、2023年12月末で1000社を超える企業が統合報告書を発行する。

・講義では、統合報告を作成することの有益性や、GRI、ISSB、EU CSRDなどの主たる基準策定機関の立ち位置の違いと相互連携を踏まえたうえで、「統合思考」に基づく「統合報告」の存在価値について踏み込んだ。

・また、WICIジャパン、GPIF、日経統合報告書アワードなどで高く評価されている日本企業のベストプラクティスとして伊藤忠商事の統合報告書のポイントを見ていった。開示を進めることでESG評価が高まり、ESG投資額も増加した統合レポート説明会の例も示しながら、比較的短期間でできるESG情報開示拡充による評価向上を図りつつも、長期的な観点でサステナビリティを経営に統合していく重要性を説明した。

・また、日本の統合報告書で投資家が重視している項目は圧倒的にトップメッセージとなっており、一方で今後開示の充実を期待する内容として技術開発に関する取り組みや沿革・歴史についても今後の開示に高い期待があるとする外部の調査を参考として紹介した。

・最後に、今後の方向性を考えるうえで参考となる海外事例として、統合思考でインパクトを意思決定に組み込んでいるABMアムロの価値創造の示し方を紹介した。

・統合報告書を発行している企業に勤める受講者からは、統合報告書によってパーパス、ミッション、マテリアリティ、事業計画と下りてくることで、自社のストーリーが、社内向けにも社外向けにも一貫性を持って伝わりやすくなっているとの感想が聞かれた。

・また中畑フェローは、統合報告は一見、投資家向けのように見えるが、上場・非上場に関係なく、統合思考で経営することが経営の高度化につながると力説した。

③企業事例:サントリーのサステナ経営戦略

時間: 14:35~15:55

講師:北村 暢康 氏(サントリーホールディングス株式会社 サステナビリティ経営推進本部 副本部長)

第3講には、サントリーホールディングスの北村暢康・サステナビリティ経営推進本部 副本部長が「サステナ経営戦略」について講義した。主な講義内容は次の通り。

・サントリーグループの企業理念は、「人と自然と響き合い、豊かな生活文化を創造し、『人間の生命(いのち)の輝き』をめざす」。企業理念の本質をより一層追求することがサステナビリティ経営そのものである。

・社内で議論を重ねて、「水」「容器・包装」「気候変動」「原料」「健康」「人権」「生活文化」の7つのテーマを設定した。その中でも、2030年のサステナビリティ経営目標は「温室効果ガス(GHG)」「プラスチック(容器・包装)」「水」の大きく3分野に分かれる。

・2030年までにGHGはバリューチェーン全体で30%削減(基準年2019年)、プラスチックについては、リサイクル素材or植物由来素材100%に切り替え、新たな化石由来原料の使用ゼロの実現を目指す。水については工場節水で使用量を35%削減(基準年2015年)などの目標を定めた。

・GHG削減施策としては、2021年5月に稼働した新工場「サントリー天然水北アルプス信濃の森工場」がある。再生可能エネルギー発電設備やバイオマス燃料を用いたボイラー導入、再生可能エネルギー由来電力の調達などにより、「CO2排出量ゼロ工場」を実現した。

・プラスチックについては、「プラスチック基本方針」を策定し、2030年までにグローバルで使用するすべてのペットボトルをリサイクル素材または植物由来素材100%に切り替え、新たな化石燃料由来原料の使用ゼロを目指す。

・2018年には世界初「FtoPダイレクトリサイクル技術」を開発した。この技術では新たに化石由来原料を使う場合と比べて、約70% のCO2排出量を削減する。

・2003年から「天然水の森」活動を始めた。工場で汲み上げている地下水(天然水)の2倍以上の水を涵養すべく土壌保全型の環境林整備を行う。

④海洋プラごみ問題:企業と NGO の連携

時間: 16:10~17:30

講師:マクティア・マリコ 氏(一般社団法人Social Innovation Japan 代表理事・共同創設者/株式会社Nature Positive 代表取締役)

マクティア・マリコ氏

第4講には、Social Innovation Japanのマクティア・マリコ代表理事が「海洋プラごみ問題:企業とNGOの連携」について講義した。主な講義内容は次の通り。

・2050年までに海の魚量よりも海洋プラごみの量が超えるとされる。これまでに1億5000万トンが流出し、現在でも年間で800万トン流出している。それらのプラスチックを動物が誤飲するケースも多い。

・人体への影響も懸念される。海洋プラスチックによる海洋汚染は地球規模で広がっていて、北極や南極でもマイクロプラスチックが観測されたとの報告もある。こういった広がりによって、人も1週間に5gのプラスチックを摂取しているという研究があり、胎児の接種や母乳からの検出も報告されている。

・ライフサイクルを通じたCO₂排出も危惧され、1995年から2015年までにプラスチックのカーボンフットプリントは2倍になった。プラスチック生産はGHG排出量の4.5%を占めており、40年までに倍増するとも言われている。

・日本はリサイクルが進んでいると言われているが、その一方で廃プラスチックの輸出量は年間で約150万トン(19年)で、純輸出量(輸出量-輸入量)は世界的にも最大だ。一人当たりのプラスチック容器包装廃棄量も、世界でワースト2位となる。

・日本のプラスチックリサイクル率は84%だが、その内訳をみるとサーマルリサイクル(熱回収)が56.6%を占める。ペットボトルの漂着ごみを調べると、国内のゴミが多くの割合を占める。

・マクティア・マリコ氏は「サーキュラーエコノミーを軸にて、社会をリデザインしなければならない」と強調する。サーキュラーエコノミーの3原則を提示するエレン・マッカーサー財団は国や行政による規制の必要性を訴えている。

・EUなどでは使い捨てプラスチック規制の実施や、30年までに使い捨てプラ包装を禁止する規制を導入する。また国際的にも、24年の合意を目指してプラ条約の議論が進む。日本でも京都・亀岡市が21年からレジ袋の提供を禁止するが、一方で日本の規制はEUなどと比べると緩いのが現状だ。

・企業の取り組みも進む。ユニリーバは30年までに事業活動からのGHG排出量をゼロにするなどの目標を掲げる中で、25年までにバージンプラの使用を50%減らすことやリサイクルプラへの置き換などを進める。

・東京都などはサーキュラーエコノミー特化型スタートアップ創業支援プログラム「CIRCULAR STARTUP TOKYO」が展開されており、すでに16社が取り組みを進めている。