サステナ経営塾第20期下期第5回講義レポート

株式会社オルタナは2025年2月19日に「サステナ経営塾」20期下期第5回をオンラインとリアルでハイブリッド開催しました。当日の模様は下記の通りです。

①国際NGOの活動を知る
時間: 10:20~11:40
講師:サム・アネスリー氏(一般社団法人グリーンピース・ジャパン 事務局長)

第1講には、国際環境NGO グリーンピース・ジャパン 事務局長のサム・アネスリー氏が登壇し、国際環境NGOグリーンピースの活動ついて講義した。主な講義内容は次の通り。

・グリーンピースの誕生は、1971年9月15日。米国が行う核実験を止めるため、世界から集まった活動家がカナダ・バンクーバーでロックコンサートを開いて資金を集め、一隻の船でアムチトカ島へ向かい抗議活動を行ったことがきっかけである。その後各国に拠点を拡大し、現在は3隻の船を保有し、国内外で連携し活動している。

・ミッションに「地球規模での環境保護と平和」を掲げる。世界55以上の国・地域で活動を展開しており、2500人以上のスタッフがいる。活動の独立性と中立性を保つため、企業や政府からの資金援助を受け付けず、世界300万人の個人の寄付で成り立っている。

・グリーンピースは非暴力を重要なポリシーとしている。過去に捕鯨船に体当たりするなど過激な活動を行っていたのは、氏が設立したシー・シェパードという団体で、グリーンピースとは全く別の団体である。ワトソン氏の活動が、グリーンピースの活動として誤って報道されることがあるが、シー・シェパードの活動と彼の言動は、グリーンピースを脱会した1977年以降、グリーンピースとは一切関係はない。

・同NGOは国連がNGOに与える最高の資格である「総合協議資格」を保有し、環境問題の専門家として、気候変動枠組条約締約国会議(COP)やプラスチック汚染対策に関する条約策定に向けた会合など、国際会議にオブザーバー資格で出席し、各国政府へのアドバイスや提言も行う。

・グリーンピースの優先課題は、「気候&エネルギー」「生物多様性」「社会・経済」の三つだが、その中でも、日本で活動する上で最も貢献できる分野が「気候&エネルギー」なので、グリーンピース・ジャパンは、この分野に特化してキャンペーンに取り組む。具体的には、「ゼロエミ・断熱」「モビリティ」「プラスチック」がキーワードだ。

・同NGOはIDEAL(理想)原則に基づいて、活動を行っている。IDEALとは、英語で「理想の」という意味で、Investigate(科学的調査をする)、Document(報告書、写真などの証拠をまとめる)、 Expose(公表する)、 Act(行動する)、Lobby(交渉する)の頭文字を取った言葉だ。

・過去の企業キャンペーンには、ユニクロやザラなどの衣料品ブランドを対象に、製造工程における有害化学物質の排出ゼロを求め、対象企業がコミットしたデトックスウォーター・キャンペーンや、パーム油生産によるインドネシアの森林破壊を止めるために行ったキットカット・キャンペーンなどがある。

・グリーンピースは企業批判のイメージが強いが、一般の方がイメージするような抗議活動は全体の5%程度に過ぎない。グリーンピース・ジャパンのサム・アネスリー事務局長は「私たちがボイコットを呼びかけることはない。より良くするための企業との対話を求めている。私たちが働きかけるのは業界をリードする企業に絞っている。その意味では、私たちに働きかけられた場合、ラッキーだと捉えてほしい」と話した。

②サステナ経営検定2級試験の過去問演習と解説
時間: 13:00~14:20
講師: 木村 則昭氏(Nick’s Chain 代表/株式会社オルタナ オルタナ総研フェロー)

第2講には、Nick’s Chain代表でオルタナ総研フェローの木村則昭氏が登壇し、サステナ経営検定2級試験の過去問演習と解説を行った。

・サステナ経営検定はサステナビリティに関する唯一の検定となっている。2級は3級合格者やサステナビリティ経営やSDGsに関心がある社会人・研究者などが対象となる。これまで7600人超が受験し、合格者は4217人にのぼっている。

・問題形式は選択式25問、記述式2問で構成され、80%以上の正答率で合格となる。試験時間は100分で、時間配分は選択式と記述式でそれぞれ50分ずつが推奨される。

・木村則昭氏は学習のポイントとして「テキストを2度通読」「大事だなと思ったキーワードにはマークすること」「直近2回分の過去問を1度解くこと」の3つを挙げる。そして合格のポイントとして「各10点の記述式問題で満点をとることは難易度が高く、選択式で高得点をとることが重要だ」と強調する。

・選択式で高得点を狙ううえで「無回答の問題をゼロにしてほしい」とし、「1問2分で解くのが目安」だとした。また選択式問題には「適切なものを選びなさい」「不適切なものを選びなさい」という設問があり、多くの受験者が誤答する問題となっている。時間配分を気にしつつも、慎重な回答が必要だ。

・記述式ではそれぞれ「400文字以内」での回答となるが、木村氏は「400文字しっかりと書くこと、最低でも395文字書いてほしい」と勧める。そのうえで「採点は加点方式となるので、押さえるべきキーワードを余すことなく書くことが重要だ。それぞれで10個ほど書き出して、それを基に回答を組み立ててほしい」とした。

・講義では演習問題を解いた後にグループワークを挟んで受講生からの質問に答えた。「管理職要件に検定合格を入れたいが、その場合2級と3級どちらが適切か」と質問が出て、木村氏は自らの経験から「3級を基準として、2級はアドバンテージとしていた」と紹介。そのうえで「社内浸透を進める上で共通言語で話せることは重要で、検定は有力なツールになる」とした。

・記述式での400文字についても質問があり、「同じことを書いていても、300文字と400文字では同じ点数にはならない。合格を目指すのであれば、簡潔に400文字しっかりと書いてほしい」とした。

③サステナビリティ経営時代のESG情報開示とアンケート対応
時間: 14:35~15:55
講師: 室井 孝之氏(株式会社オルタナ オルタナ総研フェロー)

第3講には、オルタナ総研フェローの室井孝之氏が登壇し、「サステナビリティ経営時代のESG情報開示とアンケート対応」について講義した。

・はじめに、経営者に求めたいサステナビリティの取り組みを7つ挙げた。地球環境への配慮をはじめ、ステークホルダーにストーリーとしてESG情報を開示することの重要性を指摘した。

・次に紹介したのは、ESG情報の開示と企業価値の関連性だ。学術的にも相関関係が指摘されており、コンサル会社からは、開示の質とPBR(株価純資産倍率)に正の相関が存在するとの報告もある。ESGと財務指標のひも付けは海外企業が先行しているとし、独ソフトウェア企業のSAPや仏食品大手のダノン、日本では日立製作所の事例を取り上げた。

・そのうえで、室井氏は「企業のESG情報開示は進化している」と評価した。FTSE Blossom Japan IndexならびにMSCIジャパンESGセレクトリーダーズ指数をはじめ、CDPのA評価企業数やDJSI(S&Pダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス)選定企業数を見ても、高い評価を受ける日本企業は増えているとした。

・ESG情報開示に影響を与える要因としては、以下の7つを挙げた。①SSBJ(サステナビリティ基準委員会)や②TISFD(不平等・社会課題に関連する財務情報開示に関するグローバル・フレームワーク)、③ISSA5000(サステナビリティ報告に対する保証基準)、④スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コード、⑤金融庁や⑥東京証券取引所などの動向に加え、⑦金融セクターでのESGのプレゼンスの高まりについて説明した。

・年金積立金管理運用独立法人(GPIF)は2015年、国連責任投資原則(PRI)に署名した。GPIFが選定するESG指標として、①FTSE Blossom Japan Index、②MSCIジャパンESGセレクトリーダーズ指数、③MSCI日本株女性活躍指数、④S&P/JPXカーボン・エフィシエント指数、⑤FTSE Blossom Japan Sector Relative Index、⑥Morningstarジェンダー・ダイバーシティ・ティルト指数の6つを紹介した。

・CDPやDJSIのアンケート対応についても解説した。最後に、情報開示の目的は、企業価値を投資家などのステークホルダーに正しく理解・評価してもらうためにあると指摘した。そのために重要なこととして、企業の価値創造ストーリーを明確化することや、経営トップが自らメッセージを発信すること、開示のビジュアル性といった見やすさを工夫することなどを挙げた。

④サステナ経営塾第20期Q&A コーナー「今サステナ担当者に何が求められているのか」
時間: 16:10~17:30
講師: 河口 真理子氏(立教大学特任教授)

第20期の最終回となる第4講は、20年以上にわたりサステナビリティの研究を行ってきた河口真理子・立教大学特任教授が「今サステナ担当者に何が求められているのか」について講義を行い、全体で質疑応答も行った。

・講義の冒頭、河口講師は、「2025年の今、私たちが生きている世界」について紹介した。世界気象機関(WMO)によると、2024年の世界の気温は、産業革命以前の水準から1.55℃上昇。2024年は史上最も暑い年になり、2025年1月にはロサンゼルスの山火事が起きた。

・気候変動は危機的な状況にありながら、世界の政治情勢は不安定だ。トランプ米大統領は、パリ協定離脱の手続きを進めたほか、反ESGや反DEI(多様性・公正性・包摂性)の方針を掲げ、SDGs(持続可能な開発目標)が目指すベクトルを逆転させようとしている。

・世界のリーダーシップも様変わりしつつある。主要先進国のG7から、先進国や資源国を含めたG20への移行が進む。日本でも、フジテレビ問題をはじめとした企業のガバナンス不全、少子高齢化など社会問題が山積し、日本の相対的経済地位は低下している。

・河口講師は、「VUCA(変動制・不確実性・複雑性・曖昧性)時代だからこそ、初心に還ることが必要だ」と話し、「なんちゃってESGになっていないか」と疑問を投げかけた。「本来、企業のパーパス(存在意義)は、波風があっても、揺るがないもの。トランプ政権による逆風があるとはいえ、後退するものではない」。

・そもそもなぜサステナビリティなのか。河口講師は、「地球のキャパシティに対して、人間活動の影響が大きすぎた。いままでの地球のバランスを崩してしまった」と話す。

・「代表的な指標がCO2排出量だが、CO2さえ減らせばどうにかなると考えるのは間違っている。化学物質や窒素、リンも大きな環境問題で、事態はどんどん悪くなっている。本来、経済『成長』を見直すべきなのに、本質的な取り組みが進んでいないのではないか」

・トランプ政権のもと、多くの米国企業は、DEI推進施策の見直しを表明した。一方で、「マクドナルドやウォルマートがDEIを止めると言われるが、すでにDEI目標をほぼ達成している。トランプを機にスローダウンしただけではないか。そもそもトランプ大統領は4年で任期を終える」。

・河口講師は、組織の持続可能性の例として、式年遷宮を挙げた。伊勢神宮は20年に1度、伊勢神宮の内宮や外宮の正殿などの社殿を建て直し、ご神体を遷す。「継続するために、絶対に変えない本質を守り、それ以外は時代に応じて柔軟に大胆に変える。日本ならではの和のサステナビリティを見直す意義があるのではないか」。

・河口講師は「サステナ担当者は、自分の言葉で社内外に語れなければならない。ぶれない軸を持ちながら、社会の情勢に合わせて柔軟に手段を考える。自分たちの現状とあるべき姿を見失わないようにすることこそが、パーパスだ」と激励した。