サステナ経営塾第20期上期第5回レポート

株式会社オルタナは2024年8月21日に「サステナ経営塾」20期上期第5回をオンラインとリアルでハイブリッド開催しました。当日の模様は下記の通りです。

①企業事例:トヨタ自動車のサステナ経営戦略

時間: 10:20~11:40

講師:大塚 友美 氏(トヨタ自動車株式会社 チーフサステナビリティオフィサー)

第1講は、トヨタ自動車株式会社 チーフサステナビリティオフィサーの大塚友美氏が「トヨタ自動車のサステナ経営戦略」と題して講義した。講義の要旨は下記の通り。

・トヨタ自動車のサステナビリティ経営とは 現会長の豊田章男が社長になって以来取り組んできた「トヨタらしさを取り戻す闘い」そのものである。

・トヨタ自動車は2000年代にグローバルにビジネスを拡大した。その間、台数や利益に重点を置きすぎてしまい、リーマンショック後に赤字に転落、翌年に品質問題が起きた。章男会長が社長に就任したのは まさにそのタイミングだ。会社が潰れるのではないか、という危機に社長が言い始めたのが「トヨタらしさを取り戻す」ということ。

・章男会長は社長時代、「もっといいクルマ」「町いちばん」「自分以外の誰かのために」ということを言い続けた。「もっといいクルマ」というのは、パーパス経営の方向性を示しており、クルマづくりを通じて社会に貢献することを軸に置いたことを強調した。「グローバル No.1」ではなく、「町いちばん」に愛され、必要とされる会社になることを掲げ、将来世代も含めたマルチステークホルダーを意識することを訴えた。

・具体的には 東日本大震災後に長期的に東北の復興に貢献するため生産を東北に移管、六重苦と言われる厳しい経営環境の中でも日本で300万台の生産を維持することを宣言、BEV一択でカーボンニュートラルを目指すという風潮の中、世界中の誰も取り残さずカーボンニュートラルを実現するため多様な選択肢の重要性を説いた。よくサステナビリティと利益は二項対立と捉えられるが、この間に損益分岐台数が約30%改善するなど、「トヨタらしさを取り戻す闘い」は競争力向上に貢献した。

・「自分以外の誰かのため」という考えは、トヨタ自動車の創業の精神でもある。豊田佐吉翁は、「夜遅くまで働く母親の仕事を楽にしてあげたい」という思いで、織機を片手で操作できるよう改良し、生産性を大幅に上げた。

・不確実性が高い中、長期で取り組まなければならないのがサステナビリティ経営の難しさ。鍵を握るのは人の育成であり、トヨタでは「自分以外の誰かのため」に行動する人材の育成に力を入れている。組織・人事制度の変革、トヨタイムズなどを通じて会社の取組やその背景にある考え方を浸透させている。また「トヨタのトップダウンはトップが現場に降りていくこと」と定義し、経営層が現場で行動することを通じて 多くのステークホルダーを共感で巻き込んでいくことに努めている。

・自動車業界は100年に一度の大変革期。トヨタは「モビリティ・カンパニー」への変革を通じて、持続的に社会に貢献することを目指す。

②サステナ経営検定3級試験の過去問演習と解説

時間: 13:00~14:20

講師:木村 則昭 氏(Nick’s Chain 代表/株式会社オルタナ オルタナ総研フェロー)

第2講には、Nick’s Chain代表でオルタナ総研フェローの木村則昭氏が登壇し、サステナ経営検定3級試験の過去問演習と解説を行った。

・サステナ経営検定は日本で唯一のCSR/サステナビリティの検定試験。3級は2016年からスタートし、受験者の累計は1万3233人にのぼる。ビジネスパーソンや学生を対象とし、サステナ経営/CSRリテラシーの基本を習得し仕事などで活用できるように知識を習得することを目指す。

・24年版では必須キーワードに「サーキュラーエコノミー」「グリーンウォッシュ」が新たに追加された。学習のポイントとして「テキストの3度通読」「最新3回分の過去問を解くこと」「模擬試験を受験すること」、そして合格のポイントとして「全設問に回答すること」「時間配分に気をつける」「適切と不適切を間違えないこと」を挙げた。

・木村氏が近年の出題傾向を分析したところ、「最近の傾向として平準化されてきている」と指摘。最新テキストは39章と4つのコラムがあることから、満遍なく学習することが重要であるとした。

・木村氏は演習を終了後に、「適切と不適切が混ざって出てくることや、組み合わせを選ぶ問題が難しい。正解の導き出し方に慣れてくれるといいのでは」とアドバイス。合格率は70%程度で推移しているとして、「必ず合格することができる」と受講生を鼓舞した。

・また、最近のサステナビリティに対する関心動向についても触れた。木村氏はISO26000について「CSR担当者のなかには理解していない方もいらっしゃる」とした上で、ESGやTCFDなど個別の課題に集中する傾向もみられるが「個別の課題が変わったとしても、CSRの柱が変わることはない」と指摘した。

・さらに「SDGsは2030年で終わるが、新たなアジェンダが続く」ことや「サーキュラーエコノミー、生物多様性、地球温暖化などがこれからのサステナビリティのメインストリームになる。これらの問題の全てに関わるのは人権と捉えていただくと、サステナビリティに関する理解はより深まるのでは」と述べた。

③宿題発表:自社のアウトサイドイン&パーパス表現②

時間: 14:35~15:55

講師:森 摂(株式会社オルタナ 代表取締役/オルタナ編集長)

第3講では、オルタナ 代表取締役/オルタナ編集長の森摂が「宿題発表:自社のアウトサイド・イン&パーパス表現②」の講義を行った。内容は以下の通り。

・「アウトサイド・イン」とは、「社会課題の解決を起点にしたビジネス創出」である。国連の文書「SDGコンパス」にも記載されている公式用語だ。企業の周りには顧客や市場(マーケット)があり、これまで市場のニーズに応えるためには「マーケットイン」のアプローチが王道だった。マーケットインのベクトルを少し伸ばすと、顧客の外側にある社会の声が聞こえてきて、そこに新規事業のニーズやシーズを見つけることができる。

・パーパスは「存在意義」と訳す。企業には、パーパスを原点にして3つのベクトルがある。1つ目は「収益性」、2つ目が「社会の繁栄」、そして3つ目が収益性と社会を同軸化する「持続可能性」だ。重要なのは、3つのベクトルの原点にはパーパスがあるということだ。パーパスは社員の行動の根本にあり、それが企業の存在意義になる。「何のために会社が存在しているのか」「会社がなくなったら社会は困るのか」を常に考え、存在意義を再確認する必要がある。

・受講生は宿題で「自社のアウトサイド・イン&パーパス」シートを作成した。創業ストーリーや経営者の思いを見える化し、自社の存在意義を見つめ直した。当日はシートを元にグループで発表し、意見交換を行った。

・自動車部品メーカーの受講生は、パーパスに基づいた自社の取り組み事例としてサステナブルな製品やプロジェクトを紹介した。講師の森は、プロジェクトにもきちんと「名前」をつけることが大事だとコメントした。製品、サービスだけでなく、プロジェクトにも名前があることで、社内外から注目されるようになる。皆さんの会社でサステナブルなブランドやプロジェクトが増えると、会社のファン(消費者、学生、株主)も増える。そのようなプラスのスパイラルを作ってほしい(森)。

④企業事例:自然資本/生物多様性――カーボンニュートラルと並ぶ世界の大潮流

時間: 16:10~17:30

講師: 岡野豊氏(日本電気環境経営統括部兼経営企画部兼事業開発統括部シニアプロフェッショナル)

第4講は、日本電気環境経営統括部兼経営企画部兼事業開発統括部シニアプロフェッショナルの岡野豊氏が「自然資本/生物多様性」について講義した。

・米国大学院で生態学修士課程を修了した岡野氏は、前職の自動車メーカー勤務時代から、ビジネスと自然環境・生物多様性保全の同時実現に挑戦してきた。岡野氏は「すべてのビジネスは、『自然資本』があるからこそ、成り立っている。あなたの会社はどのような自然資本に依存しているか、ぜひ考えてみてほしい」と投げかける。

・自然資本とは、「動物」「植物」「空気」「水」「土壌」など自然によって形成される資本のことで、その自然資本から得られる恵みを「生態系サービス」という。世界経済フォーラムのレポート(2020年)によると、世界のGDPの半分44兆米ドル(約6400兆円)が、自然資本に依存している。

・しかし、IUCN(国際自然保護連合)によると、4万2100種以上の生物が絶滅危機にある。これは、全評価種の27%以上に相当する。「グローバルリスク報告書2024年版」は、今後10年の大きなリスクとして、「異常気象」「地球システムの危機的変化(気候の転換点)」の次に「生物多様性の喪失と生態系の崩壊」を挙げた。

・こうした生物多様性の危機が迫るなか、2022年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議で、生物多様性に関する世界目標「昆明・モントリオール枠組み」が採択された。企業に情報開示を求める法律を各国政府が策定することが定められた。

・TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は2023年9月、フレームワークの最終提言を公表し、自然資本にかかわるリスクと機会の情報開示を推進する。

・NECは他社に先駆け、TNFDレポート作成に着手。社内で有志を募り、試行錯誤しながら、国内IT企業初となるTNFDレポートを2023年7月に発行した。その背景には、「ICTでビジネスと自然とのかかわりを『見える化』し、さまざまな産業の変革を支援したい」(岡野氏)という思いがあった。2024年6月には内容を更に充実させた第2版を発行した。

・「他社の課題は自社の機会につながる」との考えのもと、NECはデータサイエンスの力で、他社のネイチャーポジティブ経営への変革を後押しする。ICTでサプライチェーン上のリスクや機会を洗い出すほか、TNFDレポート作成の伴走支援なども行う。

・岡野氏は、TNFDに取り組むことは、「企業活動と自然のかかわりを理解すること」「世界に求められるビジネスモデルに変革すること」「人と自然の関係をつくり治すこと」だと語る。

・「TNFDレポートは、人類が大きな流れを変えられるツールだと信じている。人類やビジネスを持続可能にするためにも、ぜひ取り組んでほしい。もうかればもうかるほど自然が豊かになるビジネスづくりを実現したい」と意気込んだ。