サステナ経営塾第20期上期第4回レポート
株式会社オルタナは2024年7月24日に「サステナ経営塾」20期上期第4回をオンラインとリアルでハイブリッド開催しました。当日の模様は下記の通りです。
①ビジネスと人権: 「サプライチェーンのリスク」
時間: 10:20~11:40
講師: 下田屋 毅氏(Sustainavision Ltd. 代表取締役/オルタナ総研フェロー)
第1講には、Sustainavision Ltd. 代表/オルタナ総研フェロー下田屋毅氏が『ビジネスと人権:「サプライチェーンのリスク問題」』について講義した。主な講義内容は次の通り。
・英国を拠点に日本企業にCSR/サステナビリティに関する研修、関連リサーチを実施している下田屋氏から、サプライチェーンにおける人権リスクがどこにあるのか、「ビジネスと人権」の国際動向などについて解説をした。
・冒頭で、人権の尊重は、経営リスクの回避になるだけでなく、従業員にも良い影響をもたらし、結果として企業の市場競争力を高めることにつながると説明した。
・企業の中にはステークホルダーを特定し、それぞれのステークホルダーと対話を図ってマテリアリティを決めている企業もあるが、企業と直接コミュニケーションを図れる状況にないステークホルダー「ライツホルダー(権利所持者)」を忘れてはいけないと伝えた。ライツホルダーは、企業の影響を受けているものの直接的ではないことが多く、具体的には、外国人労働者や先住民族など、企業がステークホルダーとして見なしていない人たちもサプライチェーン上で企業が影響を与えている可能性がある。
・人権DDの中で、ライツホルダーへの配慮をしている企業はまだ多くなく、企業側が意識して見つけていくよう配慮が必要だと説明した。また、人権侵害の影響を受けやすいグループとして、「子どもと若者」「宗教・民族その他のマイノリティ」「女性」「高齢者」「障がい者」「移民労働者」「先住民族」などがある、という国際的な原則が国連などから出ていることを紹介した。
・講義の中では、グローバリゼーションの陰で、インド・ボパール化学工場やバングラデシュのラナ・プラザビル倒壊事故などを機に、強制労働・児童労働の実態が明るみに出た事例を写真とともに紹介した。また、食品や化粧品など幅広く使われているパームオイルについては、海外で調達する際に人権侵害につながりやすい事例として紹介した。
・講義後半では、現代奴隷制についても言及し、日本の「外国人技能実習生制度」も問題視されていることを説明した。
②企業事例: アシックスのサステナ経営戦略
時間: 13:00~14:20
講師: 吉川 美奈子氏(株式会社アシックス エグゼクティブディレクター)
第2講には、吉川美奈子・アシックス エグゼクティブディレクターが登壇し、自社のサステナ経営戦略について講義した。主な講義内容は次の通り。
・アシックスでは、「サステナビリティ」を中期経営計画と長期ビジョン「VISION2030」の重要な目標・テーマの1つに位置付けている。
・マテリアリティ(重要課題)を、2026年度の時代認識を踏まえて特定した。「心身の健康」や「イノベーション」「製品とサービスの品質」「サプライチェーンの人権・透明性」「気候変動への対応」など9つ特定した。
・サステナビリティを推進するためのフレームワークを策定し、活動体系として「ピープル(人と社会への貢献)」と「プラネット(環境への配慮)」の2領域に分けた。ピープルでは、心身の健康とサプライチェーンの人権尊重を、プラネットでは気候変動対応やサーキュラーエコノミーの推進などに取り組む。
・ピープルの戦略である、サプライチェーンの人権尊重の一環として、委託生産の中心である東南アジアの工場で、サステナビリティ基準を満たす工場と取引している。2004年からNGOとの話し合いを始め、CSR管理に取り組む。
・サプライチェーンにおける人権DDに取り組む。サプライチェーンにおける強制労働に関する企業評価を投資家に発信しているKnow the chain のアパレル・フットウェアセクターにおいて、最高評価を得た(2023年)。調査対象は、世界のアパレル・フットウェアセクター全65社 。日本企業は5社。
・プラネットの戦略である、気候変動対応については、2010年からマサチューセッツ工科大学と製品ライフサイクルにおける環境負荷に関する共同研究を実施してきた。2018年には、世界のスポーツメーカーで初めて国際イニシアティブ SBTi から承認を取得した。2019年には世界のスポーツメーカーで初めて TCFDへの賛同を表明した。
・2023年には、温室効果ガス排出量世界最少スニーカー「 GEL-LYTE lll CM 1.95 」を発表した。CO2排出量は世界最少の1.95 ㎏。同じカテゴリーの平均は約8㎏。パーツ数を大幅に削減した。最新の取り組みとして、製品のカーボンフットプリント表示も行う。
・サステナビリティのガバナンス体制としては、執行機関として、社長を議長とするサステナビリティ委員会(サステナビリティの機会)、リスクマネジメント委員会(人権のリスクを含む)を設置した。討議事項が監督機関である取締役会に報告、決議される。
③宿題発表: 自社のアウトサイド・イン&パーパス表現①
時間: 14:35~15:55
講師: 森 摂(株式会社オルタナ 代表取締役/「オルタナ」編集長)
第3講では、受講生が事前に提出した「自社のアウトサイド・イン&パーパス表現」について意見交換を行った。概要は以下の通り。
・受講生は自社のアウトサイド・イン戦略とパーパスについてプレゼンし、意見交換を行った。
・パーパスを原点にして3つのベクトルがある。1つめは経済のゴールとしての「収益性」、2つめが社会のゴールとしての「社会の繁栄」、そして3つめが、経済と社会を同軸化する「持続可能性」だ。
・重要なのは、3つのベクトルの原点にはパーパスがあるということであり、そのパーパスが社員の行動の根本にあり存在意義となる。会社が何のために存在しているのか、この会社が存在しなかったら社会は困るのかを常に考え、存在意義を再確認する必要がある。
・IIRC(国際統合報告評議会)は2019年に出した「Purpose and Profit」という小冊子のなかで、「価値創造ストーリーに挑戦する経営者への10の質問」を公開し、「事業を取り巻く状況を説明したか」や「あなたは誰?」、「あなたのビジネスが価値を創造する方法を説明していますか?」といった問いを投げかけた。これらの質問は統合報告書を作成する際の大きな要素となる。
・受講生はグループに分かれ、考えてきた自社のアウトサイド・イン戦略/パーパス表現を起承転結でプレゼンした。全体発表では森から、各社のSDGsの目標が多岐にわたるなかで、自社が最も貢献できる部分に絞ることでマテリアリティに近づけると指摘した。
④企業事例: オムロンのサステナ経営戦略
時間: 16:10~17:30
講師: 貝崎 勝氏(オムロン株式会社 グローバルコーポレートコミュニケーション&エンゲージメント本部 サステナビリティ統括部長)
・オムロン創業者の立石一真は1959年、「社憲」として「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」を制定した。「自らが社会を変える『先駆け』になる」という決意を込めた。
・社憲と、3つの価値観「ソーシャルニーズの創造」「絶えざるチャレンジ」「人間性の尊重」を合わせたものが、オムロンの企業理念体系だ。貝崎部長は、「私たちの判断や行動の拠りどころであり、オムロンの求心力であり、発展の原動力」と説明する。
・オムロンが企業理念を実践するために、力を入れるのが、社内表彰制度「TOGA:The OMRON Global Awards」だ。グローバルで、企業理念の実践に挑戦し続ける風土を醸成することを目的に、2012年に開始した。「より良い社会にしようと、日々チャレンジしている社員がたくさんいるのではないか。そうした思いを持つ社員を発掘し、その輪を広げるために立ち上げた」(貝崎部長)。
・オムロンは創業以来、世界初の無人駅システム(1967年)や電子血圧計(1973年)、アイドリングストップ用DC-DCコンバーター(2012年)、ロボット総合コントローラー(2020年)など、ソーシャルニーズに対応した製品・サービスを開発してきた。貝崎部長は、この先の10年について、「新たな社会・経済システムへの移行が進み、多様な社会的課題が噴出するが、オムロンが存在意義を発揮し、成長するチャンスにもなりえる」と話す。
・同社の長期ビジョンおよび中期経営計画では、事業戦略とサステナビリティ重要課題との「完全統合」を目指す。「サステナビリティ」を「社会と企業の両方の持続可能性を追求すること」と定義し、「社会価値」と「経済価値」を創出することで、企業価値の最大化を図る。
・特に、フォーカスする社会的課題が「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」だ。社会インパクトと自社の強みを考慮した。これらの社会的課題の解決に向けて、事業を通じて社会価値を創出する。
・取締役と執行役員の中長期業績連動報酬には、第三者機関の調査に基づくサステナビリティ指標を組み込んだ。社員のインセンティブにも、サステナビリティ目標を組み込み、全社的なサステナビリティ推進を強化した。
・貝崎部長は、「オムロンの存在意義は、事業を通じて社会価値を創出し、社会の発展に貢献し続けること。そのためにも、サステナビリティマネジメントをより強固にして、ソーシャルニーズの創造に挑戦していきたい」と語った。