SUS部員塾第17期下期第4回講義レポート

株式会社オルタナは1月19日に「サステナビリティ部員塾」17期下期第4回をオンラインで開催しました。当日の模様は下記の通りです。なお次回(17期下期第5回=2022年2月16日)もオンライン形式で開催します。17期のカリキュラムはこちら

①企業とNGO/NPOのエンゲージメントとは何か

時間: 10:30~12:00

講師: 東梅 貞義 氏 (WWF ジャパン)事務局長

東梅 貞義(WWF ジャパン)事務局長

企業のサステナビリティ活動において、NGOはどのような役割を担っているのか。生物多様性を守るための協働、政策を後押しするためのアドボカシー、ESG投資を進めるための投資家へのディスクロージャーなど、WWFの多岐にわたる取り組みを語った。

●緊急度の高いサステナビリティ課題に「生物多様性」

米コンサル会社・グローブスキャンの調査(2021年)によると、サステナビリティ課題の解決にもっとも貢献しているセクターがNGOという結果に。NGOの中でも、WWFへの評価と期待が高い。

企業が考える緊急度の高いサステナビリティ課題の上位は、1.気候変動、2.生物多様性、3.水資源の枯渇となった。今回は2位の生物多様性を中心に、取り組みを紹介した。

●イオンとの協働:サケの養殖区の環境改善とASC認証の拡大

南米チリではサケの養殖場拡大にともない、化学薬品を使用した餌による環境汚染が起きている。WWFはオランダのIDH(持続可能な貿易を推進する団体)とともにASC認証の普及に取り組み、20年6月にはチリの養殖サケ生産量の40%が認証を取得するまでになった。

日本ではイオンとともに、ASC認証の水産物普及に努めている。イオンとは紙、パルプ、木材、パーム油の持続可能な調達についても継続的に対話を進めている。

●ブリヂストンとの協働:森林保護と持続可能な天然ゴム調達

世界的な森林減少の原因の一つが、天然ゴムの採取。ミャンマーではトラの保護区で森林破壊が起きている。天然ゴム用途の80%がタイヤ製造で、2030年までに毎年2%ずつ生産が拡大していく見通しだ。

WWFはブリヂストンとともに、1.サステナブルな天然ゴムの調達方針の策定、2天然ゴムトレーサビリティの確保、3.天然ゴムサステナビリティ向上に向けたマルチステークホルダープラットフォームの設立を行なった。

3.のプラットフォーム「GPSNR」には、トヨタなどの自動車メーカーから生産地の小規模農家まで、業界横断的なステークホルダーが参加している。

●低炭素社会に向けた政策アドボカシーで政府を後押し

企業の脱炭素に向けた取り組みには、政策の後押しが必要。WWFは企業とともに「JCI(気候変動イニシアチブ)」を立ち上げ、アドボカシー(政策の提言・政府への働きかけ)を行っている。

日本政府が温室効果ガスの削減目標を26%から46%に引き上げたのはJCIの働きも大きく、企業の声が政策を動かすことを証明した。

●生物多様性版のイニシアチブ、情報開示の設立も間近に

WWFは機関投資家との対話も行い、ESG投資とディスクロージャーの推進にも力を入れている。2030年の「生物多様性回復」に向けて、23年にはTCFDのネイチャー版である「TNFD」 が設立し、SBTiのネイチャー版であるSBTNも発足した。

企業は気候変動だけでなく生物多様性についても、情報開示や目標設定が求められることになる。

WWFは「30年の温室効果ガス半減」と「30年の生物多様性回復」という2つの目標を掲げ、引き続き企業のサステナビリティ活動に協力していく。

NPO事例紹介:日本の中の「難民問題」への取り組み

時間:13:00~13:15

登壇:吉山 昌 氏(認定NPO法人 難民支援協会 事務局長 兼 広報部マネージャー)

吉山 昌(認定NPO法人 難民支援協会 事務局長 兼 広報部マネージャー)

認定NPO法人難民支援協会は日本の中にいる「難問問題」に取り組んでいる。UNHCRによると世界には8240万人(2020年末)の難民がいるとされている。一人ひとり難民になった背景は異なる。民主化運動への参加、性的マイノリティー、紛争が起きたなどだ。

国際社会全体で難民問題に対処しないといけないが、日本は難民への対応が非常に遅れている。2020年の日本での難民申請数は3936人、そのうち難民認定を受けたのは47人に過ぎない。

ドイツの63456人(認定率41.7%)、カナダの19596人(認定率55.2%)、フランスの18868人(認定率14.6%)と比べるとのその差は歴然だ。コロナ禍によって、生活の困窮は進み、医療へのアクセスの困難さも増している。

このような状況で、難民支援協会は難民認定を得るための法的支援から始まり、生活支援、就労支援、コミュニティ支援などを行う。加えて、政策提言や広報活動にも力を入れている。

企業事例12:イオン

時間:13:15~14:45

講師:木下順次 氏(イオン株式会社環境・社会貢献部)

木下順次(イオン株式会社環境・社会貢献部)

大手小売のイオングループは全世界で19288店舗運営している。売上高は約8兆6039億円に及ぶ。「平和の追求」を掲げた基本理念をもとにサステナビリティの基本方針を定めた。「環境」と「社会」の2軸からなる。

環境では、「脱炭素」「生物多様性」「資源循環」を、社会では、「エシカルな商品」「人権」「コミュニティとの協働」を重点課題に据えた。

イオングループの電力使用量は日本国内の電力量の1%に相当する。脱炭素の長期目標として、2040年までに国内店舗で排出するCO2排出量をゼロにすることを目指す。

店舗電力の再エネへの切り替えと同時に力を入れるのがPPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)だ。PPAとは、第三者が設置・所有する太陽光発電から電力を購入する仕組みだ。イオンは200店舗以上にPPAモデルによる太陽光発電の導入を目指す。

WAONポイントを活かした取り組みも行う。FIT終了世帯からイオン店舗に提供した余剰電力量に応じて、WAONポイントを付与するものだ。この仕組みで、中部エリアにおいては、年間再エネ調達量が1,600万kWhに及ぶ。(消費電力の約25%相当分を卒FITから調達した再エネでカバーした)

EVを仲立ちとして各家庭で発電した再エネを店舗へ移行するVPPシステムやブロックチェーン技術で再エネの環境価値をWAONに紐づけるためのAIシステムの構築にも取り組んでいる。

顧客が集う小売の特徴を活かして、取り扱う商品を通してサステナブルなライフスタイルを提案する。同社が策定した持続可能な調達方針は下記の通り。

農産物:

・プライベートブランドはGFSIベースの適正農業規範(GAP)管理100%実施をめざす。

・オーガニック農産物の売上構成比5%をめざす。

畜産物:

・プライベートブランドは、GFSIベースの食品安全マネジメントシステム(FSMS)または、適正農業規範(GAP)による管理100%実施をめざす。

水産物:

・連結対象のGMS、SM企業で、MSC、ASCの流通・加工認証(CoC)100%取得をめざす。

・主要な全魚種で、持続可能な裏付けのあるプライベートブランドを提供する。

紙・パルプ・木材:・主要なカテゴリーのプライベートブランドについて、持続可能な認証(FSC認証等)原料の100%利用をめざす。

パーム油:・プライベートブランドは、持続可能な認証(RSPO等)原料の100%利用をめざす。

その他、コーヒーとカカオの持続可能な調達を推進するため、2030年までにトップバリュで販売するチョコレートを「国際フェアトレード認証ラベル」もしくは、「国際フェアトレード原料調達ラベル」の、いずれかが貼付されたものへと切り替える。

近年、成長しているヴィーガン市場に対応し、植物由来の商品を2021年8月現在で12品目展開している。

その他、資源循環や食品ロス、地域コミュニティ支援、森林保護活動などの取り組みを紹介した。

③WS(自社における人権問題の洗い出し)

時間:15:00~16:30

講師:森 摂(株式会社オルタナ 代表取締役・オルタナ編集長)

森 摂(株式会社オルタナ 代表取締役・オルタナ編集長)

コフィー・アナン元事務総長が残した「3つの贈り物」には、実は4つ目の贈り物があった。それが「国連ビジネスと人権に関する指導原則」だ。これはジョン・ラギー教授の「ラギーレポート」がベースになっている。ラギー教授を国連に呼び込んだのはアナン氏だった。

また、金融界ではPRI からESGが生まれた。脱炭素、人権の流れは国連、そしてアナン氏の主導で進んだと言える。アナン氏が国連、人権にかける思いは相当なものがあったのだろう。

企業は市民から共感、信頼を得ることが大切だ。現社員、そして未来の社員も市民社会から生まれる。

紛争鉱物 2010年に可決されたドッド・フランク法では、紛争鉱物として、スズやタングステン、コバルトなどを使用していないか、人権侵害が行われていないかデューデリジェンスが求められた。こうした鉱物は、バッテリー製造に不可欠の鉱物でもある。

LGBTも今後人権リスクとなる。どの国、どの会社組織にも6%はいとされる。同性婚でも扶養手当をもらえないか、など人事部の課題にもなる。2021年11月30日に経産省が発表した調査によると、人権方針策定を策定している企業は7割ほどで、まだ道半ばだ。

講義の後、各社からの発表を行った。人権方針を策定している企業が多いが、まだない企業という企業もあった。

課題としては、「適用範囲」の明瞭化が必要、サプライヤーが多く、全ての取引先に理解してもらうのが難しいといった声が挙げられた。またネット事業では、表現の自由などが守られているかも課題という発言もあった。

④企業事例13:味の素

時間: 16:45~18:15
講師: 高取 幸子 氏(味の素株式会社 サステナビリティ推進部 部長)

高取 幸子(味の素株式会社 サステナビリティ推進部 部長)

「うま味」を通じた栄養改善を目的に創業した味の素は創業から一環して、事業を通じて社会的価値と経済価値の両立を追求してきた。創業は1909年、世界135カ国に製品を展開し、売上高は1兆714億円に上る。

重点事業は6つだ。「味の素」に代表される調味料、スープの「クノール」などの栄養・加工食品、天然系加工食品に冷凍食品もある。ヘルスケアや電子材料も取り扱う。

サステナビリティの取り組みについては、1993年に環境室を発足する。その後、行動規範をつくり、2000年に同社初となる環境報告書を発行した。2005年にCSR担当部署を立ち上げ、2014年には同社が社会と共有する価値「ASV」を策定した。ASVとは、事業を通して、社会的価値を社会や地域と共有して経済的価値を高める取り組みを指す。

2020年にはサステナビリティ推進部を設立して、2021年にはサステナビリティ委員会もつくった。中長期目標となるグルーバルビジョンでは、アミノ酸を通した栄養改善で、ウェルネスの共創を掲げた。具体的には2030年までに「10億人の健康寿命を延伸」「環境負荷を50%削減」の2つを掲げている。

2019年時点で同社は7億人に製品の提供を行っているが、これを年率3%(約2700万人)増やして、2030年までに10億人に伸ばす考えだ。そのプロセスの一環として、栄養価値の見える化にも取り組む。これはANPS(AjinomootoNutrition Profiling System)と名づけたサービスで、)食品中の栄養成分量を分析・スコア化し、その栄養価値を可視化する。同社のサービスのアウトカムである「栄養価値」を可視化して、国際アジェンダにつなげることを考えている。

海外での取り組みとしては、ベトナムの4000以上の小学校に同社の製品を組み込んだメニューブックやレシピ作成ソフトなどを普及している。

事業を成長させながら環境負荷を50%下げる取り組みについては、温室効果ガスや水、プラスチック、フードロス、生物多様性などに取り組む。気候変動に関しては、SBT、RE100,TCFDなどのイニシアチブにも加盟している。

フードロス削減の一環として、「サルベージクッキング」と名づけたオンラインイベントを開いている。日本では家庭から出るフードロスは全体の約半数を占めることから、毎日の料理や食事で実践できる食材をムダなく、おいしく食べ切るレシピや習慣を広げるコミュニケーション活動だ。家庭で余った魚、野菜、お肉、調味料の活用方法を紹介している。