サステナ部員塾18期上期第3回レポート

株式会社オルタナは6月15日に「サステナビリティ部員塾」18期上期第3回をオンラインで開催しました。当日の模様は下記の通りです。

①企業事例:ヤフーのサステナビリティ戦略

時間: 10:30~11:45
講師: 西田 修一 氏(ヤフー株式会社 執行役員 SR推進統括本部長)

西田 修一 氏

ヤフーは「UPDATE JAPAN」をビジョンに掲げ、情報技術で人々の課題を解決することを目指す。「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の完了」を「『企業のサステナビリティ(稼ぐ力)』と『社会のサステナビリティ(ESG)』の両立が図れた状態」と定義し、サステナビリティの推進を図っている。

西田氏は「経営陣や従業員がESGの重要性を理解しようとしまいと、投資家からは評価される」とし、ESGへの取り組みは必須だとした。同社では、「ESG」の活動はリスク低減活動と位置付けている。

具体的には、E(環境)の取り組みとして、再生可能エネルギーへの切り替えがある。インターネットは大量のサーバーを使用し、サーバーを動かすための電力や、冷やすための電力を大量に消費するため、化石燃料由来から再エネへの切り替えを進める。

自社だけではなく、社会全体の脱炭素化を進めるため、カーボンニュートラルを目指す地方公共団体に対し、「企業版ふるさと納税」の仕組みを活用して支援するプロジェクトも立ち上げた。

S(社会)の領域では、婚姻の平等(同性婚の法制化)のキャンペーン「Business for Marriage Equality」に参画したり、性別にかかわらず不妊治療で最長1年間休職できる「プレグナンシーサポート休職制度」を整えたりしている。

G(企業統治)に関しては、「ガバナンス委員会」を設置。「ビッグデータの取り扱いを巡っては、ときに脅威に感じられてしまうため、データガバナンスに関する方針をしっかりと示していく」(西田氏)とした。

社会課題に対応する事業活動としては、Yahoo! JAPANの「検索窓」の活用がある。例えば、「死にたい」といった心の叫びが書き込まれたとき、相談センターの電話番号などが自動で表示される。3月11日に「3.11」と検索されると、一人につき10円を東日本大震災の復興支援活動に寄付するプロジェクトもある。「検索は『知りたい』という自分事化するという行為で、検索結果には被災地の状況が表示される。これにより、忘れていないというメッセージを届けられる」(西田氏)。

西田氏は、CSRに必要なマインドとして、「Warm hearts but cool heads(温かい心と冷静な頭)」「正義の鎧をまとわない」「風を読む」「らしさ」を挙げた。

「温かい心で向き合いながら、冷静な頭で見極めることが重要だ。そして、『圧倒的正義』をふりかざしてもうまくいかない。さまざまな役割があることを理解する必要がある。また、何かアクションをするときは、最大効果を発揮する場面やタイミングを図らなければならない。最後にそれぞれの『らしさ』を忘れないでほしい」(西田氏)


ミニプレゼンテーション:ACEFの教育支援

時間:11:45〜12:00
講師:小田哲郎氏(認定NPO法人アジアキリスト教教育基金事務局長)

国際協力NGOの認定NPO法人アジアキリスト教教育基金(ACEF:エイセフ)は1990年の設立以来、30年間にわたりバングラデシュで教育支援を行ってきた。特に取り残されやすい女子の教育に力を入れる。1990年当時、バングラデシュは「アジア最貧国」と呼ばれ、成人識字率は30%にとどまっていた。そこで、エイセフは、青空教室から教育事業を開始した。はじめからレンガ造りの立派な校舎をつくると、一方的な援助になってしまったり、援助に依存してしまったりする恐れがあり、住民自らが教室をつくるなど、住民参加型の学校づくりを目指した。現在は42校、約4000人の生徒がいる。職業訓練校を立ち上げ、就労支援も行う。

②脱炭素社会に向けた国際的な動向と国際イニシアティブ

時間:13:00〜14:15

講師:池原庸介氏(SGSジャパン株式会社 認証・ビジネスソリューションサービス ESGアドバイザリー)

池原庸介氏

企業がESG対応(特に脱炭素)を行うにあたり、知っておきたい世界の動きと関係するイニシアティブを紹介した。

今や地球温暖化(気候危機)の原因が人類の活動にあることは世界の常識で、温室効果ガスの排出量を「2050年までに」実質ゼロにすることが共通のゴールとなっている。この世界的な流れを受け、脱炭素はあらゆる企業活動・経済活動のベースになった。

世界の脱炭素を進めるにあたり「非国家アクター」(企業、投資家、NGOなど)が担う役割は大きい。国連主導の「レイス・トゥ・ゼロ」キャンペーン(2050年までの実質ゼロが目標)に参加する非国家アクターだけで、世界の排出量の88%、GDPの90%、人口の85%をカバーしている。

企業が参加する主なイニシアティブに、RE100(再エネ100%にコミット)やSBT(パリ協定と整合した削減目標)がある。特にSBTにコミットした企業は2017年〜21年に64%の排出量削減を達成しており、機関投資家の信頼を得ている。

機関投資家は、国際環境NGO「CDP」が開示する企業データをもとに投資判断を行なっている。データの情報開示はTCFDというフレームワークにのっとり、1)ガバナンス、2)戦略、3)リスク、4)指標・目標の4分野で行う。22年4月に発足したプライム市場では、TCFDに基づいた情報開示が実質義務化された。

資産運用大手による「ネット・ゼロ・アセットマネージャー」や、金融機関による「ネット・ゼロ・バンキングアライアンス」などのイニシアティブも立ち上がっており、脱炭素に取り組まない企業は投融資を受けられなくなるリスクがある。

今後は生物多様性についても同様の情報開示が求められることになる。生物多様性についてはTNFDの運用が始まろうとしており、企業は気候変動と自然資本に対する取り組みを一体で進めることが必要となる。

③WS(SDGsアウトサイドイン②)

時間:14:30~15:45
講師: 森 摂(株式会社オルタナ 代表取締役 オルタナ編集長)

サステナビリティ部員塾では「アウトサイドイン」を体験するワークショップを2回に分けて開催。後半となる今回は、グループごとにパイロット企業を設定し、社会課題を解決する新たなビジネス創出を議論した。全体発表では、食品ロスを活用した国内外の食料支援や、一週間サバイバルできるキットなどさまざまなビジネスアイデアが披露された。

④企業事例:ユニリーバのサステナビリティ戦略

時間: 16:00~17:15
講師: 伊藤 征慶 氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社  ヘッドオブコミュニケーション)

ヘアケアや衣料用洗剤、調味料などを展開する世界最大規模の消費財メーカーのユニリーバは社員数14万8千人、売上高は6兆3680億円を誇る。本社は英国ロンドン。400以上のブランドを持ち、年間売上高10億ユーロ以上のメガブランドはLUXや DOVE、AXEなど12ある。

特徴は世界各国でバランスよく展開している点にある。売上比率は、アジア、アフリカ、東欧、中欧が46%、南北アメリカが32%、西欧が22%だ。全体売上高の58%が新興市場である。

ユニリーバは2010年から2020年までのサステナビリティ戦略「ユニリーバ サステナブル リビング プラン」を発表。これは同社のプロダクトを通して健康、環境、インクルージョンを図る中長期戦略だ。

2021年からは、ユニリーバ・コンパスを策定した。健康、環境、インクルージョンの3分野は変えずに、さらに詳細化した。8個のテーマを定めて、中長期的な数値目標を設定した。

例えば、健康分野は3つのテーマを設けた。そのうちの一つ「ごみのない世界」では2025年を目標年に、非再生プラスチックの使用を50%削減、販売量よりも多くのプラスチックを回収・再生、事業からの食品廃棄量を半減などを目指す。